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  • こんにちは、森本愛です。パリのパティスリー「Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール」でセバスチャンのアシスタントとして仕事をしています。アシスタントといってもお菓子を作るパティシエではなく、広報、マーケティング、イベントやコラボレーション企画のプロジェクト管理などを主な仕事としています。フランス人が愛して止まない「パティスリー」の表舞台と裏舞台の両方に関わる日々は、発見と驚きの連続。この連載で皆さんと少しでも共有できたら幸せです。
                                 森本愛

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 移動祝祭日 ”Paris est une fete”  vol.10「パリで大流行《Fast Good》」

2月に入り晴天続きのパリ、寒さなんて忘れて青空の下を散歩したくなる今日この頃です。
皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回はパリジャン&パリジェンヌの間で大人気、青空にぴったりな新しい食のスタイル「fast good」を紹介したいと思います。「fast good」はfast foodが進化した造語で、ただ早くて安いだけではない、上質でオシャレでヘルシーなファーストフードという意味で、現代のパリっ子を魅了して止まないトレンドなのです。

ブームに火をつけたのは、3年ほど前にパリ市内で続々とオープンした高級な肉やオーガニック食材で作るハイクオリティなハンバーガー専門店「Big Fernand」や「Bioburger」、「Blend Hamburger Gourmet」たち。加えて、食事をもっと手軽に、でも安心して食べられる健康食を、という風潮に合わせて、「Food Truck(トラックの屋台)」がパリ市内に出没し始めます。この「フードトラック」、ロサンジェルスではすでに爆発的な人気を誇り、その人気がパリに飛び火したもので、ロスからまずは2台のトラックがパリの青空の下を駆け回るようになりました。その名も「Le Camion qui fume(煙を吐いて走るトラック)」と「Cantine California(カリフォルニア食堂)」。共通点はどちらも経営者がロス出身のシェフであること。さらには、パリの有名料理学校を卒業後、星付きレストランで経験を積んだ実力派であること。

フランス産の高品質な牛肉にフロマージュ、オーガニックに限定した食材を使った彼らのハンバーガーの評判はたちまち口コミで広がります。出没する場所は日替わりで変わるため、時間と場所の詳細が随時WEBサイトやFacebook、twitter等で告知され、現代の若者の生活スタイルにフィットしたこのスピード感が人気を後押ししていることは否めません。流行に敏感なモード関係者が集まるサントノーレ界隈やオーガニック専門の朝市が立つマルシェ・ラスパイユなど、オシャレなパリっ子が集まる場所に集中的に出没するあたり、ただの屋台ではなさそうです。

さて、気になるお値段はと言うと、ハンバーガーが単品で8ユーロほど、フライドポテトやサラダが付くセットで11ユーロほど。ハンバーガーにしては少々割高ですが、食材の品質の高さ、目の前でジューシーに焼き上がるお肉がそのままいただける嬉しさを考慮すると決して高くはないでしょう。ちなみに、お肉の焼き加減はもちろんお好みでリクエスト可能。立ったままいただく本格ビストロ・ハンバーガー、といったところでしょうか。ベジタリアンを意識した野菜中心のハンバーガーもメニューに加えることを忘れない心遣い、お見事。

このブームは今なお健在で、今では同様のフードトラックがあちこちで見られるようになりました。フォアグラサンドなど、フランスの高級食材をライト感覚に味わえるトラック「Le Refectoir」やベトナム風サンド専門のトラック「Classico Argentino」なるものも出現し、フードトラックからは嬉しい煙がパリの青空高く立ち上っています。

最後に紹介するのは、ジャンクフードがスタイリッシュにガストロノミーの仲間入りをした決定版、半年前にオープンしたテイクアウト専門のケバブ・レストラン「Grille(グリル焼き)」。

皆さんはケバブ(kebab)という食べ物をご存知でしょうか?主に中東の国々で食されている肉料理で、垂直の串に既にしっかり味付けされた羊や鶏肉を差し込み(巨大な肉の塊をご想像ください)、水平に回転させつつグリルで外側から焼いてゆき、焼けた部分から大きなナイフで削ぎ落とした肉をレタスやトマトなどの野菜とフライドポテトと一緒にピタパンに包んでいただくのが、一般的なケバブのスタイル。ボリュームたっぷりで僅か5ユーロほど、酔っ払った後の空きっ腹に学生達がこぞって列をなすのが主流でした。

空腹を凌ぐためのチープなサンド、というイメージを払拭した「Grille」。どんな仕掛け人がどんな新しいケバブでパリっ子を長蛇の列に巻き込んでいるのでしょう?

始まりは料理界ではすでに名の知れたFred Peneau氏の中東旅行だそう。本場のケバブを食してそのクオリティーの高さにすっかり感動したPeneau氏。「星の数ほどあるパリのケバブ屋になぜ本場と同じ味のケバブがないのか!」という疑問から、「無いならば自分で作ってしまおう!」という結論へ。すでに予約の取れないレストラン「Chateaubriand」を立ち上げたプロデュース力と、元建築家という自身のユニークなキャリアを駆使して、瞬く間にオープンにこぎ着けます。

素材へのこだわりも半端ではありません。ピタパンはもちろん生地から手作り。オーガニックのスペルト小麦を使用した自然発酵のパン。肉はフランス産の仔牛に羊か豚肉をミックスしたもの。もちろん冷凍肉は厳禁。24時間前からオーガニックハーブでマリネしたお肉を丁寧にじっくり5時間かけてグリルしてゆきます。トッピングはレタスにオリーブ、コリアンダ、レモンにミントと爽やかなオーガニック食材が特徴で、何とも上品。気になるお値段はケバブロール8.5ユーロなり。

こうして今日のパリの流行を見ていると、ハイクオリティ&カジュアル。若者も年配者もはたまた男女の壁も越えた、まったく新しくて自由なバリアフリーなスタイルに近づいているような気がします。かつての古き良き時代-テーブルに行儀良く座り、ナイフ&フォークのマナーを気にしつつ何時間もかけて食事をいただく-といった伝統的なスタイルももちろん健在ですが、フランス人がだんだん食事に時間をかけなくなっていることは事実。少々寂しい気もしますが・・・。

パリを闊歩しつつ、新しいfast goodなランチをお楽しみください。公園で、セーヌ川のほとりで、今まで見えなかった目線で新しいパリを発見できるでしょう。

SHOP DATE
BIG FERNAND /55 rue du Faubourg Poissonniere 75009 Paris
Bioburger / 10 rue de la Victoire 750009 Paris
Blend Hamburger Gourmet / 44 rue d'Argout 75002 Paris
Le Camion qui fume / http://www.lecamionquifume.com/
Cantine California / http://www.cantinecalifornia.com/
Le Refevtoire / http://www.le-refectoire.com
Banh mi / http://www.banhminomade.com
Classico Argentino / http://www.clasico-argentino.com/fr/les-restaurants/el-carrito
Restaurant Grille / 15 rue Saint-Augustin 75002 Paris

イラスト
Iveta Karpathyova
ILLUSTRATION & CREATIVE SERVICES
www.ivetaka.com

 

 パティスリー「セバスチャン・ゴダール」

Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard -
パティスリー・デ・マルティール - セバスチャン・ゴダール -

セバスチャン・ゴダールが2011年にオープンした初の路面店。場所は美食通りとして名高いパリ9区のマルティール通り。コンセプトはフランス菓子の伝統を伝えること。斬新さやデザイン性を追及するのではなく、誰もが記憶に留めているフランスの古き良きクラッシック・パティスリーの奥深さを追求。ショーウィンドーを飾るのはパリ・ブレストからサントノレといった伝統パティスリーに加えて、クロワッサン等のヴィノワズリー類、ボンボン・ショコラ、アイスクリーム、昔ながらの飴類、お茶類など、コンフィズリーも充実。さらに、パティスリーに合わせて楽しめるシャンパンやワイン、リキュールなど、アルコール類も豊富に取り揃えている。
Patisserie des Martyrs -Sebastien Gaudard-
22, Rue des Martyrs 75009 Paris
Tel : 01 71 18 24 70
www.sebastiengaudard.com 

Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール
1970年ロワール地方生まれ。『FAUCHON(フォーション)』のシェフ・パティシエを務めた後、老舗高級百貨店『Le Bon Marche(ボン・マルシェ)』にサロン・ド・テ『Delicabar(デリカバー)』をオープン。
時代をリードする存在として注目される。2011年自身の名を掲げた路面店『Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard-』をオープン。
2012年 Guide Pudloが選ぶ『トップシェフパティシエ』受賞
著書
『Agitateur de gout』 2006年 (Hachette出版)
『Le Meilleur des Desserts』 2009年 (Hachette出版)

  • サンシュルピス広場

    パティスリーの店内

  • セバスチャン・ゴダール

    セバスチャン・ゴダール氏  

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