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  • こんにちは、森本愛です。パリのパティスリー「Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール」でセバスチャンのアシスタントとして仕事をしています。アシスタントといってもお菓子を作るパティシエではなく、広報、マーケティング、イベントやコラボレーション企画のプロジェクト管理などを主な仕事としています。フランス人が愛して止まない「パティスリー」の表舞台と裏舞台の両方に関わる日々は、発見と驚きの連続。この連載で皆さんと少しでも共有できたら幸せです。
                                 森本愛

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 移動祝祭日 ”Paris est une fete”  vol.11「メルヴェイユ《Merveilles》」

バレンタインの甘い2月が終わり、パリの空もどこか春を感じられる透明感が漂い始めました。3月、カーニバルの伝統と一緒に生まれた『Merveilles-メルヴェイユ(フランス語で「素晴らしい」という意』と呼ばれるなんとも素朴なお菓子をご存知でしょうか?『Bugnes-ブニュ』と呼ぶ人もいます。味はドーナツを連想させるような、香ばしくて懐かしい揚げ菓子です。カーニバルの伝統はフランスではもうあまり見られないけれど、『Merveille-メルヴェイユ』を家庭で手作りする伝統は今も健在で、3月は私のような『Merveille-メルヴェイユ』ファンにとってはまさにメルヴェイユ(素晴らしい)な月なのです。もちろん、セバスチャン・ゴダールのブティックでもセバスチャン自身が子どものころから親しんできた『Merveille-メルヴェイユ』がショーウィンドーを優しく飾っています。

セバスチャン・ゴダールで売られる『Merveille-メルヴェイユ』は、それは薄く伸ばした生地をパティシエたちが繊細な注意を払って一切れ一切れカッティングした後、オーブンでサラリと軽めに火を入れます。仕上がりはレースのように薄くエレガントですから、食する際は一枚一枚壊れないように慎重にいただくことになります。思わずお気に入りの陶器皿に重ねて、アフタヌーンティーと共に頂きたくなる、そんなお菓子です。

一方、一般の家庭で何年も作り続けられる『Merveille-メルヴェイユ』は、うっかり落っことしても大丈夫。通常、厚めに揚げて、ぷっくりと膨らんだ様相をしています。朝食に一つまみ。ランチ後のデザートにまた一つまみ。夕方の空腹をなぐさめるために一つまみ...。このお気軽さも美味しさの秘訣でしょう。今年も『Merveille-メルヴェイユ』を手作りする週末に、あるフランス人家庭にお誘いいただき、TGVに乗りました。「今年も」と書いたのは、今年で3度目の参加だから。この日は手作り『Merveille-メルヴェイユ』のために家族親族に加えて親しい友人達が顔を揃える、貴重な一日です。

フランスのあちこちでお目にかかる『Merveille-メルヴェイユ』ですので、それぞれの家庭にオリジナルのレシピととっておきの秘訣が隠されています。今回は特別に、私がここ3年毎年ほっぺが落ちそうな美味しさを味わっている『Merveille-メルヴェイユ』のレシピを紹介しましょう!

作り方は至って簡単。まずは小麦粉を1kg用意して、ベーキングパウダー5g、塩10g、砂糖200gと一緒に大きなボールに投入してゆきます。その山盛りの粉をさっくり混ぜ合わせ、卵を丸ごと8個割り入れて、両手で優しく捏ね、さらに200gのバターを加えて捏ね合わせてゆきます。このタイミングで、バニラエッセンスを数滴。また、バターは予め常温に戻しておいて、小さく角切りにして少しずつ捏ね合わせてゆくと、粉と液体がちょうど良い具合に一つの生地へと形を変えてゆくでしょう。両手で優しく力強く捏ねていくうちに、メロン大の生地が出来上がったら、さらに空気を含むように大胆に丸みを帯びるように捏ねて、どっしりしているけれどもフンワリ感が程よく加わったところで、形を整えて、あらかじめ湿らせておいた木綿のキッチンリネンで優しく包み、1時間~2時間ほど寝かせます。その間に大きなお鍋に油を用意。全部で1ℓほどでしょうか。まずは3分の1ほどを火にかけます。同時にテーブルに小麦粉をパッパッとまぶし、生地を伸ばしてカッティングするスペースを準備しておきます。そこへ眠りから覚めたばかりのフンワリ膨らんだ生地を少量ずつ伸ばして広げて、ナイフで好きな形にカッティングしていきます。通常、ひし形の中央に切り目を一つ二つ入れたものがスタンダードな形。そして、温度が十分上がった油にどんどん落として揚げてゆきます。両面しっかり揚がったところで、取り出し粉砂糖を振りかけましょう。はい、できあがり!

熱々も、冷まして翌日のおやつにも、どちらも香ばしさがたまらない味わいです。このレシピで10人ほどのティータイムにも十分な量が出来ますので、ご家族や親しい友人を招いて『Merveille-メルヴェイユ』な時間をお過ごしくださいね。もちろん、白い小麦粉のおしろいにまみれたあなたのTシャツがメルヴェイユ(素晴らしい)な時間の最大の勲章です。

ちなみにセバスチャン・ゴダールのレシピでは、揚げないでオーブン焼きにし、Fleur d'Oranger(フルール・ドランジェ)と呼ばれるオレンジの花のエッセンスで香り付けすることでなんとも美妙な仕上がりに。プロのパティシエが作る繊細な『Merveille-メルヴェイユ』と、家庭で手作りするお気軽なバージョンと、両方食べ比べてあなただけのオリジナルなレシピを考案してみては?

イラスト
Iveta Karpathyova
ILLUSTRATION & CREATIVE SERVICES
www.ivetaka.com

 

 パティスリー「セバスチャン・ゴダール」

Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard -
パティスリー・デ・マルティール - セバスチャン・ゴダール -

セバスチャン・ゴダールが2011年にオープンした初の路面店。場所は美食通りとして名高いパリ9区のマルティール通り。コンセプトはフランス菓子の伝統を伝えること。斬新さやデザイン性を追及するのではなく、誰もが記憶に留めているフランスの古き良きクラッシック・パティスリーの奥深さを追求。ショーウィンドーを飾るのはパリ・ブレストからサントノレといった伝統パティスリーに加えて、クロワッサン等のヴィノワズリー類、ボンボン・ショコラ、アイスクリーム、昔ながらの飴類、お茶類など、コンフィズリーも充実。さらに、パティスリーに合わせて楽しめるシャンパンやワイン、リキュールなど、アルコール類も豊富に取り揃えている。
Patisserie des Martyrs -Sebastien Gaudard-
22, Rue des Martyrs 75009 Paris
Tel : 01 71 18 24 70
www.sebastiengaudard.com 

Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール
1970年ロワール地方生まれ。『FAUCHON(フォーション)』のシェフ・パティシエを務めた後、老舗高級百貨店『Le Bon Marche(ボン・マルシェ)』にサロン・ド・テ『Delicabar(デリカバー)』をオープン。
時代をリードする存在として注目される。2011年自身の名を掲げた路面店『Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard-』をオープン。
2012年 Guide Pudloが選ぶ『トップシェフパティシエ』受賞
著書
『Agitateur de gout』 2006年 (Hachette出版)
『Le Meilleur des Desserts』 2009年 (Hachette出版)

  • サンシュルピス広場

    パティスリーの店内

  • セバスチャン・ゴダール

    セバスチャン・ゴダール氏  

  • 白

      

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