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  • こんにちは、森本愛です。パリのパティスリー「Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール」でセバスチャンのアシスタントとして仕事をしています。アシスタントといってもお菓子を作るパティシエではなく、広報、マーケティング、イベントやコラボレーション企画のプロジェクト管理などを主な仕事としています。フランス人が愛して止まない「パティスリー」の表舞台と裏舞台の両方に関わる日々は、発見と驚きの連続。この連載で皆さんと少しでも共有できたら幸せです。
                                 森本愛

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 移動祝祭日 ”Paris est une fete”  vol.12「パリで大人気 エピスリー・フィンヌ《Epicerie Fine》」

マロニエの木に白や薄いピンクの可憐な花が春風に揺れる頃になりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、近頃はパリへ旅行に来る方の中で滞在型アパルトマンでの宿泊が年々増えているとか。メリットは何と言っても自分で料理が出来ることでしょうか。パリの朝市で新鮮なフルーツやチーズ、バゲットに生ハムなどを買い込んで、それに合うワインがあれば、もう素敵なランチが気軽に楽しめてしまう。おまけに節約もでき、その分パリを離れる最後の夜は星付きレストランでシックに・・・。なんて楽しみ方もできそうです。

そんな“自活型”旅行者の皆さんに朗報。パリでは今、小さくとも魅力的な食料品のお店“Epicerie Fine(エピスリー・フィンヌ)”が次々とオープンしています。“エピスリー”の歴史は長く中世まで遡ります。発祥は“エピス”つまり香辛料を売る店。その後19世紀に入り、現在のような食料品店の形をとるようになりました。現在では街中の小さな乾物屋から、マドレーヌ寺院を囲むFAUCHON(フォーション)HEDIARD(エディアール)などに代表される19世紀から続く高級食料品店まで、そのクオリティーは様々ながら、時代は変われどもグルマンなパリっ子にはいつも欠かせない大切な存在です。

           マルシェ・ポンスレの八百屋さんの遊び心溢れるフルーツデコレーション

売られているのは主に乾物類、缶詰やパスタ、ハムやソーセージ、紅茶にコーヒー、オリーブオイルなどの油類に砂糖や塩、香辛料、チョコレートやビスケット。基本的に日持ちのする食材中心ですから、お土産探しにもピッタリです。

そんな“エピスリー”がここ数年進化して“エピスリー・フィンヌ”へ。つまり、“上質で選り抜きの”それぞれの店がオリジナルのこだわりを持ち、セレクトショップ的なブティックがパリのあちこちにオープンするようになりました。人気の秘密は何と言ってもフランス国内の地方でしか手に入らない品質の良いセレクション。さらに、イタリア産、スペイン産など隣国の表記も目を引きます。加えてパッケージングの美しさとオシャレな店内インテリアでしょう。

友人の中でも一二を争う美食家のアレクサンドラが“Epicerie Fine《PAPA SAPIENS》”をオープンさせたのはちょうど今から半年前のこと。パリでも最も古いマルシェの一つで、星付きレストランのシェフ達がこぞって買い物に訪れる、という噂のMarche Poncelet(マルシェ・ポンスレ)界隈に店を構えた。と聞いて、これは面白いことになりそう!と、それ以来案の定すっかり虜に。

このパリの昔を彷彿させる魅力的な市場Marche Poncelet(マルシェ・ポンスレ)はメトロTerne駅を降りて徒歩3分のところにあります。Rue PonceletとRue Bayanの二つの通りがメイン通り。庭園のように美しいモンソー公園のすぐ側とあって、17区、16区、8区の富裕層に加え、その界隈で働くビジネスマン、観光客などに愛されています。

アレクサンドラのお店《PAPA SAPIENS》の魅力は、彼女がフランス中を歩いて出会った上質な食材もさることながら、その食材の作り手である生産者の純粋でまっすぐな気持ちが、買い物をしているこちらに正確に伝わってくる様々な工夫がなされているところです。フランスの西、大西洋に浮かぶ小さな島、Ile-d'Yeu(イル・デュー)から届く羊肉は毎週火曜に処理され、木曜にパリに配達されるとか。海を臨む青空牧場で豊かに育った羊たちと世話する生産者たちへのインタビュービデオが流され、どの店員の方にどんな質問をしても、商品と生産者両方を分かりやすく説明していただける・・・。

ちなみに、個人的にお気に入りなのはここで売られているドライソーセージ。ピスタチオやクミンがバランスよく配合され、繊細ながら深みのある味。友人を招待した夕食のアペリティフに添えると、必ずどこで手に入れたのか聞かれるほどです。それからソーセージ類。アレクサンドラのセレクションはSaucisse au couteau(ソーシッス・オ・クトー)と言って、通常の機械処理ではなく、一つ一つ生産者の手で混ぜ合わせたスペシャルソーセージなのです。さらには、いつもは買えない高級食材ながら特別な日のソワレに“イベリコ豚のエルメス”と呼ばれるスペイン産パタネグラ。その場でスライスしていただけます。他にも、三ツ星シェフがこぞってコラボレートしたがるオリーブオイル造りの王様、Cedric-Casanova(セドリック・カサノヴァ)のオイルと彼が生産するシチリア島のオレンジやレモン。Jacques Bellangerの頬がとろけ落ちるようなチョコレート、コルシカ島のハチミツ。Maitre Tsengの貴重なジャムたち(特にライチジャムは圧巻)。数滴で料理のグレードがアップするトリュフオイルに、コーヒー、パン、ワイン、ビール・・・。

買い物をしながら、いつのまにかパリと地方の距離が縮まり、商品一つ一つを通して温かいストーリーを感じられるのです。そして、美食の国フランスが、こういった地方生産者のまっすぐな気持ちに支えられていること、その恵みをいただけることのありがたさを実感するのでした。

次回の皆様のパリ旅行時にはぜひエピスリー・フィンヌのお店をチェックしてみてください。きっと新しい発見が詰まっているはずです!

さて、この一年お付き合いいただきました連載「移動祝祭日」は今回をもって最終回となります。
皆様のパリ旅行に少しでもお役に立てたなら幸いです。Merci infiniment...。森本愛

イラスト
Iveta Karpathyova
ILLUSTRATION & CREATIVE SERVICES
www.ivetaka.com

 

 パティスリー「セバスチャン・ゴダール」

Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard -
パティスリー・デ・マルティール - セバスチャン・ゴダール -

セバスチャン・ゴダールが2011年にオープンした初の路面店。場所は美食通りとして名高いパリ9区のマルティール通り。コンセプトはフランス菓子の伝統を伝えること。斬新さやデザイン性を追及するのではなく、誰もが記憶に留めているフランスの古き良きクラッシック・パティスリーの奥深さを追求。ショーウィンドーを飾るのはパリ・ブレストからサントノレといった伝統パティスリーに加えて、クロワッサン等のヴィノワズリー類、ボンボン・ショコラ、アイスクリーム、昔ながらの飴類、お茶類など、コンフィズリーも充実。さらに、パティスリーに合わせて楽しめるシャンパンやワイン、リキュールなど、アルコール類も豊富に取り揃えている。
Patisserie des Martyrs -Sebastien Gaudard-
22, Rue des Martyrs 75009 Paris
Tel : 01 71 18 24 70
www.sebastiengaudard.com 

Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール
1970年ロワール地方生まれ。『FAUCHON(フォーション)』のシェフ・パティシエを務めた後、老舗高級百貨店『Le Bon Marche(ボン・マルシェ)』にサロン・ド・テ『Delicabar(デリカバー)』をオープン。
時代をリードする存在として注目される。2011年自身の名を掲げた路面店『Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard-』をオープン。
2012年 Guide Pudloが選ぶ『トップシェフパティシエ』受賞
著書
『Agitateur de gout』 2006年 (Hachette出版)
『Le Meilleur des Desserts』 2009年 (Hachette出版)

  • サンシュルピス広場

    パティスリーの店内

  • セバスチャン・ゴダール

    セバスチャン・ゴダール氏  

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