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  • こんにちは、森本愛です。パリのパティスリー「Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール」でセバスチャンのアシスタントとして仕事をしています。アシスタントといってもお菓子を作るパティシエではなく、広報、マーケティング、イベントやコラボレーション企画のプロジェクト管理などを主な仕事としています。フランス人が愛して止まない「パティスリー」の表舞台と裏舞台の両方に関わる日々は、発見と驚きの連続。この連載で皆さんと少しでも共有できたら幸せです。
                                 森本愛

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 移動祝祭日 ”Paris est une fete”  vol.7「パリで活躍する女性パティシエ」

日曜の朝のマルシェ、ぷっくりとふくよかなブドウ達の登場です。このところパリの気温はグンと下がり、師走に向かうこの季節にふさわしい、華やかでどこか落ち着きの無い空気が街全体を包んでいるようです。

セバスチャン・ゴダールのパティスリーでも一年で最も華やかなイベント、Noel(クリスマス)へ向けて着々と準備が進んでいます。総指揮を取るのはもちろんセバスチャンですが、彼は雑誌の取材やテレビ出演依頼を最も多く受ける時期、ゆっくりアトリエで創作というわけにはいきません。セバスチャン不在を任されているのが彼の右腕シリル君。22名ほどの若きパティシエたちをまとめ、日々の製造を着実に守ってゆきます。この22名のパティシエの中には製菓学校を卒業して数年経つベテランもいれば、パティシエとしてデビューしたての若者、あるいは、まだ学校に通いながら研修している学生兼パティシエもいて、年齢も国籍も実に様々。特記すべきは女性パティシエの数が増加している近年の傾向でしょうか。実際、セバスチャン・ゴダールで働くパティシエの6割を現在女性が占めています。料理やパティスリーの世界が男の世界とされてきたのは古い話ではなく、同じ女性として彼女たちの存在をとても頼もしく感じています。

         クリスマスの準備が進むパティスリー・セバスチャン・ゴダール
         photo by: Michael Adelo

ちなみに、“料理&製菓学校のハーバード”と名高いパリ6区にあるプロ養成学校“Ecole-Francaise de Gastronomie FERRANDI”校でも女性の入学志望者がここ数年急増中、という記事を今月のル・モンド誌が伝えていました。こういった食のプロを養成する学校への入学希望者は、ここ4年前から30%増、パティスリー部門に至ってはなんと倍率4~5倍の人気ぶりだとか。

同時に、フランスは今、空前の料理決戦番組ブーム。火付け役は2010年に民放で始まった『TOP CHEF』(M6局)そして『Masterchef』(TF1局)という番組。ゴールデンタイムを飾った両番組、後者に至っては最終回に視聴率36%を記録しました。M6局では、同じく月曜のゴールデンタイムに『Le Meilleur Patessier(最優秀パティシエ)』という番組が去年よりスタートし、一般参加で選ばれたお菓子作りのツワモノたちが、毎週難題に挑戦し腕を競っています。もちろん、これまでも料理人がスタジオで料理を披露するような番組は放送されてきましたが、今日のように人々がこれほどまでに熱狂的に注目し、番組から派生したレシピ本が出版されたり、大手食品ブランドとコラボレーションPRが立ち上がったりするような社会現象は初めてのことなのです。

そして、このような番組内でもやはり女性候補者たちの目覚しい活躍が印象的です。そればかりか、雑誌やテレビで取り上げられる女性シェフ・パティシエの姿は、もはや珍しいことではなくなりました。眼差しも佇まいも自信に満ち溢れる彼女たちの姿に憧れるパティシエの卵たちが急増するのも頷けます。活躍しているのはフランス人女性だけではありません。パリでお店を持ち、あるいは、有名パティスリーの重要なポストを任され、生き生きと活躍する我らが日本人女性パティシエの姿も年々多く見られるようになってきました。

         千賀子さんの新作“Galaxie”、ホワイトチョコのムースとカシスの組み合わせ

棚木千賀子さんはモンマルトルの麓にある有名パティスリー“アルノー・デルモンテル”のシェフ・パティシエです。今からちょうど10年前に上述のFERRANDI学校を卒業し、仏国家資格CAP PATISSIER取得後キャリアをスタートされました。現在、全部で6人のチーム責任者として、フランス人の若いパティシエたちを日本人女性である千賀子さんが引っ張ってゆく日々、静かに淡々とお話してくださいましたが、この冷静さがまさにシェフの気質を感じさせます。実際、パティシエの世界では責任者になると、お菓子作り以外に、実に多岐にわたる仕事をこなさなくてはなりません。食品生産者とのやりとり、食材の発注、研修生への教育、雑誌取材やカタログといったメディア向けのお菓子の準備、そして、新しいお菓子のレシピ&デザイン考案など。その全てが母国語ではないフランス語で進んでいきますから、お菓子作りの技術に加えて柔軟なコミュニケーション力を大いに必要とされるポストです。千賀子さんにこの仕事の魅力を伺うと、日々“季節”を感じられるこの仕事が好き、とのお答えでした。そして何より、自分の作ったお菓子で人々が喜ぶ姿に励まされる、と清々しい笑顔でお話くださいました。

         由希子さん考案、秋のデザート“Chataigner”

作家由希子さんはこの春にパリでオープンしたばかりの話題のレストラン“ES(エス)”でパティシエをされています。千賀子さんと同様、国家資格CAP PATISSIERを取得され、10年前からパリでキャリアをスタートされました。有名ホテルの星付きレストランのパティシエに始まり、現在もレストランのパティスリーを担当。この仕事はテイクアウト用のお菓子とは違い、食事の流れを崩すことのない調和のあるデザート創作が求められますので、協調性や瞬発力、判断力といった様々な資質がバランスよく必要とされます。焼き上がったばかりのふんわりとしたスフレ、とろけるように滑らかなクリームはイートインだからこそ味わえる至上の瞬間、この“お菓子の最高の瞬間”と向き合えることもレストラン・パティシエの大きな魅力でしょう。由希子さんは現在お一人で20席ほどのデザートをこなしていらっしゃいます。二ヶ月に一度の頻度で更新されるメニューを考案するのも彼女の大切な役目、そのため素材の組み合わせに日頃から敏感に注意を払っていらっしゃるとか。現在レストランESのメニューを飾っているデザートは“Chataigner(マロンのお菓子)”、マロンのまろやかな甘みとパッションフルーツのヴィヴィッドな酸味のマリアージュです。由希子さんの優しくふんわりした雰囲気と芯の強い内面、その両方を体現したような美しい秋のデザートです。

お二人とも渡仏されてから10年という日々をお菓子作りに捧げ、現在の地位を確立されたわけですが、一体これまでの日々、何が彼女たちの背中を押し続けてきたのでしょうか。返ってきた答えは単純明快、“自分の作るお菓子で人を喜ばせたいから”。お話を伺いながら、もうすぐ始まるパリのクリスマス・イルミネーションの輝きに、女性パティシエたちの明るい未来を重ねたのでした。

-Arnaud Delmontel
 39 rue des Martyrs 75009 Paris Tel. 01.48.78.29.33
-ES
 91 rue de Grenelle 75007 Paris Tel. 01.45.51.25.74

イラスト
Iveta Karpathyova
ILLUSTRATION & CREATIVE SERVICES
www.ivetaka.com

 

 パティスリー「セバスチャン・ゴダール」

Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard -
パティスリー・デ・マルティール - セバスチャン・ゴダール -

セバスチャン・ゴダールが2011年にオープンした初の路面店。場所は美食通りとして名高いパリ9区のマルティール通り。コンセプトはフランス菓子の伝統を伝えること。斬新さやデザイン性を追及するのではなく、誰もが記憶に留めているフランスの古き良きクラッシック・パティスリーの奥深さを追求。ショーウィンドーを飾るのはパリ・ブレストからサントノレといった伝統パティスリーに加えて、クロワッサン等のヴィノワズリー類、ボンボン・ショコラ、アイスクリーム、昔ながらの飴類、お茶類など、コンフィズリーも充実。さらに、パティスリーに合わせて楽しめるシャンパンやワイン、リキュールなど、アルコール類も豊富に取り揃えている。
Patisserie des Martyrs -Sebastien Gaudard-
22, Rue des Martyrs 75009 Paris
Tel : 01 71 18 24 70
www.sebastiengaudard.com 

Sebastien Gaudard セバスチャン・ゴダール
1970年ロワール地方生まれ。『FAUCHON(フォーション)』のシェフ・パティシエを務めた後、老舗高級百貨店『Le Bon Marche(ボン・マルシェ)』にサロン・ド・テ『Delicabar(デリカバー)』をオープン。
時代をリードする存在として注目される。2011年自身の名を掲げた路面店『Patisserie des Martyrs - Sebastien Gaudard-』をオープン。
2012年 Guide Pudloが選ぶ『トップシェフパティシエ』受賞
著書
『Agitateur de gout』 2006年 (Hachette出版)
『Le Meilleur des Desserts』 2009年 (Hachette出版)

  • サンシュルピス広場

    パティスリーの店内

  • セバスチャン・ゴダール

    セバスチャン・ゴダール氏  

  • 白

      

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